耐薬品性について
トルエンのような有機溶剤はABS樹脂をただちに侵しますが、それほど苛烈でなく、塗布しただけでは見た目に影響のないような薬品であっても、長期間の接触によってプラスチック部品にひび割れを生じることがあります。これは環境ストレスクラック(Environmental Stress Cracking、一般にケミカルクラックとも)と呼ばれる現象で、応力がかかった状態の樹脂表面において、分子鎖の間隙に徐々に薬品が浸透することで、眼に見えないような微小なひび割れ(マイクロクレイズ)を生じ、ここが起点となって破壊が生じるものです。
環境ストレスクラックでは、部品の破断面に白化や塑性変形の痕がなく、材料が突然割れたような外観を示すのが特徴です。
上述のように、これは「薬品との接触」「応力」が同時に存在する環境で生じる現象ですので、対策にはこのどちらか、ないし両方を取り除くことが必要です。
この環境ストレスクラックの発生は、ABS以外の樹脂についても同様に発生しますが、その薬品に対する樹脂の耐薬品性は、樹脂の組成と薬品の化学的組成による影響と、成形品の歪み量の影響を強く受けます。
ABS樹脂の一般的な物質に対する、耐薬品性の評価方法は、1/4楕円法による歪みと薬品塗布による環境ストレスクラックが発生する歪み量(臨界歪み値)で判定されます。
弊社の代表的な樹脂数種の評価結果を下記に示します。
結果の見方
試験結果の臨界歪値から、実際の使用時での目安を下記に示します。
尚、この目安はあくまでも試験片の結果から実使用時での、白化、クラック等を推定したものです。
貴社での実用試験にて、確認をお願いします。
臨界歪値
0.3%以下:実使用不可レベル。製品組立、輸送などの軽微な応力によりクラックが発生する可能性大
0.3~0.7%:薬品との接触により、白化、クラックが発生する恐れのあるレベル。特に、強い応力を受けた場合には注意が必要です。
0.7%以上:実使用可能なレベル。薬品との接触により、クラック等の発生する可能性は低い。
1
テクノUMG 一般ABS樹脂の耐薬性
薬品名 | 臨界歪(%) | 薬品名 | 臨界歪(%) | 薬品名 | 臨界歪(%) |
---|---|---|---|---|---|
10%塩酸 | 0.7以上 | ヘアースプレー | 0.22 | ファミリー | 0.45 |
10%苛性ソーダ | 0.7以上 | ヘアートニック | 0.31 | ママレモン | 0.7以上 |
エチルアルコール | 0.25 | クレンジングクリーム | 0.45 | 強力ルック | 0.2以下 |
ガソリン | 0.2以下 | ヘアーリキッド | 0.56 | マイペット | 0.31 |
灯油 | 0.5 | 香料ブーケ | 0.25 | ママローヤル | 0.5 |
シリコンオイル | 0.7以上 | 森林浴 | 0.24 | チャーミーグリーン | 0.42 |
シリコングリス | 0.7以上 | フロンR-11 | 0.68 | トイレマジックリン | 0.29 |
サラダ油 | 0.56 | 防錆剤 | 0.6 | トイレルック | 0.7以上 |
ごま油 | 0.63 | 切削油 | 0.3 | クイックル | 0.7 |
バター | 0.62 | アースエアゾル | 0.48 | ||
食酢 | 0.7以上 | インキ | 0.5 |
2
テクノUMG 難燃ABS樹脂の耐薬性
薬品名 | 臨界歪(%) | |||
---|---|---|---|---|
F5330 | F1350 | F5350 | F5451 | |
10%塩酸 | 0.7以上 | 0.7以上 | 0.7以上 | 0.7以上 |
エチルアルコール | 0.25 | 0.25 | 0.25 | 0.25 |
灯油 | 0.4 | 0.5 | 0.4 | 0.4 |
マジックリン | 0.3 | 0.3 | 0.3 | 0.3 |
ママレモン | 0.7以上 | 0.7以上 | 0.7以上 | 0.7以上 |
強力ルック | 0.2以下 | 0.2以下 | 0.2以下 | 0.2以下 |
ごま油 | 0.5 | 0.6 | 0.5 | 0.5 |
モリコートグリスE | 0.7以上 | 0.7以上 | 0.7以上 | 0.7以上 |
切削油 | 0.3 | 0.3 | 0.3 | 0.3 |
3
テクノUMG PC/ABS樹脂(CK10,20,50)の耐薬性
薬品名 | CK10,20 | CK50 | ||
---|---|---|---|---|
外観変化 | 臨界歪値 | 外観 | 臨界歪値 | |
10%苛性ソーダ | 白化 | 0.7以上 | 白化 | 0.7以上 |
30%硫酸 | なし | 0.7以上 | なし | 0.7以上 |
10%塩酸 | なし | 0.7以上 | なし | 0.7以上 |
エチルアルコール | なし | 0.7以上 | なし | 0.7以上 |
メチルアルコール | やや白化 | 0.7以上 | やや白化 | 0.7以上 |
アセトン | 溶解 | 0.2以下 | 溶解 | 0.2以下 |
トルエン | 溶解 | 0.2以下 | 溶解 | 0.2以下 |
四塩化炭素 | 膨潤 | 0.5 | 白化 | 0.3 |
白灯油 | なし | 0.7以上 | なし | 0.7以上 |
エンジンオイル | なし | 0.7以上 | なし | 0.7以上 |
ブレーキオイル | 溶解 | 0.2以下 | 溶解 | 0.2以下 |
4
テクノUMG 難燃PC/ABS樹脂(CKF50)の耐薬性
薬品名 | CKF50 | |
---|---|---|
外観変化 | 臨界歪値 | |
10%苛性ソーダ | 白化 | 0.7以上 |
30%硫酸 | なし | 0.7以上 |
10%塩酸 | なし | 0.7以上 |
エチルアルコール | なし | 0.7以上 |
メチルアルコール | なし | 0.7以上 |
アセトン | 溶解 | 0.2以下 |
トルエン | 溶解 | 0.2以下 |
四塩化炭素 | 膨潤 | 0.3 |
白灯油 | なし | 0.7以上 |
エンジンオイル | なし | 0.7以上 |
ブレーキオイル | 溶解 | 0.2以下 |
5
耐薬品性の試験方法について
試験方法
テクノ(旧三菱化学)ベンディングフォーム法 (1/4楕円法)
23℃、17時間、テストピース 2mmプレスシート
先端に行くに従って徐々に曲率の大きくなる治具に板状の試験片を固定した上で薬品を塗布し、どの位置でクラックが生じるかによって、薬品の影響を判定します。
治具先端部ほど大きな曲げ応力がかかった状態ですので、クラックが生じないか、先端に近い部分で生じれば耐薬品性良好(=大きな応力がかからないと破壊しない)、根本に近い部分で生じれば薬品の影響を強く受けていると考えられます。